インボイス制度導入後の簡易課税制度選択メリット

2023年9月から、消費税のインボイス制度が段階的に導入予定となっています。

過去記事:消費税のインボイス制度とは?(80%、50%の経過措置について)

導入されるようになると、以前にも増して簡易課税制度を選択することが有利となる可能性があるので、今回はこの内容について説明したいと思います。

消費税の原則的な考え方

消費税の原則的な考え方や、小規模事業者のための免税点制度などは、以下の記事で解説しています。

【過去記事:消費税課税事業者選択届出書とは?提出すると得する?
 ⇒消費税とは?(原則的な考え方)
 ⇒事業者免税点制度(小規模事業者の納税義務の免除)

簡易課税制度とは?

簡易課税制度とは、免税点制度と同様、小規模事業者の事務簡便化を考慮して設けられた制度です。

具体的には、「支払った消費税は、売上で預かった消費税の●●%とみなす!」として、概算で仕入で払った消費税を計算する方法です。

※●●%は業種により異なります。詳細は「国税庁:簡易課税制度の事業区分」をご確認ください。

メリットとしては、原則方式とは違い、「これは消費税対象で、これは対象外で、これは飲み物だから税率8%で…」とかを判別する手間が省けます

特に消費税の対象/対象外の判定は専門知識も必要になってきますので、簡易課税だとその面でもラクです。

また、原則方式の場合には記帳の際に取引先名も摘要欄などに入力する必要が出てきたり、請求書・領収書の記載・保存要件も厳しくなるのですが、簡易課税の場合はこのあたりの取り扱いについては免税事業者のときと変わりません。

文字どおり、「簡易」になりますね。

簡易課税制度を選択するためにはどうすればいいか?

簡易課税を選択するためには、個人事業主の場合は納税義務者になる年の前年末日まで、会社の場合は納税義務者になる年度の前年度末日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」という書類を税務署に届け出る必要があります。

納税義務者になってから簡易課税の適用を受けようと思っても間に合わない」ということですね。

年度末になって「簡易で計算した方が有利だから、今回は簡易でいこう!」のような後出しジャンケンは、残念ながら認められません。

納税額の有利/不利について

事務作業という点では、簡易課税の方がラクだということが分かりました。

重要なのは「納税額」です。どちらの方が税額的に得をするのでしょうか?

財務省「消費税の多段階課税の仕組み(イメージ)」より

上の図の小売業者が簡易課税を選択すると、みなし仕入率は80%(小売業の仕入率)で計算するため、納める税金は「売上の消費税10,000円-みなし仕入れの消費税8,000円=2,000円」で済みます。

つまり事務作業が簡便化されるだけでなく、税額的にも簡易課税の方が有利になるのです。

では逆に、もし売上も仕入も同額で77,000円の場合はどうなるかというと・・

原則方式だったら0円で良かったところを、簡易は1,400円(7,000円ー7,000円×80%)は支払う必要が出てくるのです。この場合は、税額的には不利になるということですね。

前の段落でも説明したとおり、原則か/簡易かの判断は後出しジャンケン的には認められません。

つまり、来期の事業について予測を立てた上で簡易課税選択の届出する/しないを判断することが、納税額を抑えるためには非常に重要となってくるというわけです。

インボイス制度導入後は?

インボイス制度導入後に、上の図の卸売業者が免税事業者だった場合は、小売業者は仕入れの消費税7,000円を段階的に認識できなくなっていきます。(原則方式の場合)

具体的には、2023年10月以降は20%がNGとなり、2026年10月以降は50%がNG2029年10月以降は100%がNGとなるスケジュールとなっています。

そうなると、もし売上も仕入も同額で77,000円で、かつ卸売業者が免税事業者だった場合はどうなるかというと・・

  • 2023年10月以降:原則も簡易も7,000円-7,000円×80%=1,400円の納税となり同額。
  • 2026年10月以降:原則は7,000円-7,000円×50%=3,500円の納税となり、簡易の方が有利。
  • 2029年10月以降:原則は7,000円-7,000円×0%=7,000円の納税となり、簡易の方が圧倒的に有利。

となるため、インボイス制度導入後は簡易が有利になる可能性が高まることになるのです。

これに伴い、前もって行う「簡易課税選択の届出する/しないの検討」に当たっては、「仕入先などが免税事業者なのかどうか?インボイス(消費税を認識できる請求書・領収書)を発行できるのかどうか?」も考慮に入れて判断する必要が出てきて、非常に難しくなります。

また、原則方式の下では、インボイス制度が始まったら一つひとつの請求書・領収書について「インボイスなのか否か」を確認する必要が出てきます。

※請求書等に適格請求書発行事業者の登録番号の記載が無い場合に、「免税事業者だから記載がない(できない)のか、それとも単なる記載漏れなのか」を確認するような事務作業が出てくることが想定されます。

簡易の場合は売上に応じた「みなし」の仕入なので、消費税の計算においては当然、請求書等がインボイスかどうかを気にする必要はありません。

こういった事務的な面でも、インボイス制度が始まったらさらに簡易のラクさが際立つことになるでしょう。

その他留意点

簡易課税には、以下のようなメリットもあります。

  • 納税予測しやすい
    ⇒売上の見通しが立ったら、納税額も連動して見通しが立つことになるので、納税額の予測は立てやすいです。
  • 税理士報酬が安くなるケースが多い
    ⇒消費税の申告料金が原則/簡易で異なる会計事務所も多いです。当然、簡易の方が安くなります。

ただし、以下のようなデメリットもあります。

  • 赤字の場合に大変
    ⇒売上をはるかに超えるような仕入・経費がある場合でも、簡易の場合は売上に連動して消費税が決まるため、原則方式だったら還付されるような状況でも納税する必要が出てきます。