【過大役員給与】不相当に高額な金額とは?代表者に対する支給金額

前回の記事では親族に対する役員報酬の支給について争われた裁判例を分析しましたが、今回の記事では代表者自身に対する支給金額で争われた裁判例を見ていくことで、「相当な金額」とは何か、理解を深めたいと思います。

年額540万円、450万円が妥当とされた事例(平成6年6月15日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役と、その妻(平取締役)
実際の支給額S62.2期:
・代表取締役:1,800万円(前期は360万円)
・妻(平取締役):960万円(前期は300万円)
相当な金額S62.2期:
・代表取締役:620万円
・妻(平取締役):450万円
相当な金額の算出方法・代表取締役:類似法人の平均値620万円
・平取締役:前年度の役員報酬300万円×売上増加割合150%=450万円
算出方法の根拠・役員報酬の評価は売上金額の増加を基本とし、それに売上総利益の増加を加味して行うのが最も合理的ではあるが、ヒット商品は飛ぶように売れたのだから、利益率が高くなるのは当然で、これは報酬の相当額を判断する場合は重視できないので、売上の増加割合のみによって相当額の上限と認めるのが相当である。
(商品のヒットに基づく利益の増加のような一時的な利益の増加は、本来、役務の対価としての報酬ではなく、利益分配としての性質のものである)
・そうすると、代表取締役は前期の役員報酬360万円×売上増加割合150%=540万円、平取締役は300万円×150%=450万円までは妥当。
・特殊事情がなければ、平均値が常に相当な報酬額の上限であるという判断方法は採用できない
税務署の主張(代表取締役は平均値620万円、平取締役は平均値380万円なのでそれを相当額とする)のうち平取締役に対する部分を否認

年額1,800万円が妥当とされた事例(平成8年3月27日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役
実際の支給額H3.3期:3,000万円
(H1.3期は720万円、H2.3期は1,080万円)
相当な金額H3.3期:1,652万円
相当な金額の算出方法H2.3期の役員報酬額1,080万円×H3.3期の売上高増加比率153%=1,652万円
算出方法の根拠・類似法人の平均値を基準として、平均値との売上金額等の差異を修正した金額が、常に相当な金額であるということはできない
⇒税務署の主位的主張(1,400万円)を否認。
・適正報酬額は、前年度の役員報酬1,080万円×売上増加割合153%=1,652万円を超えることはないものというべき。

月額122万円が妥当とされた事例(平成20年12月1日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役
実際の支給額H15.3期:1,000万円(200万円×5か月。H14.8に死亡。)
相当な金額H15.3期:650万円(130万円×5か月)
相当な金額の算出方法H13年3月時点の役員報酬月額130万円×5か月
算出方法の根拠・H12年1月の代表取締役の入院以降、職務内容は従前と比べて減少しているので、業績上昇などの特段の事情がない限り、役員報酬額が上昇する合理的根拠は認め難い。(H13年4月とH14年1月の二度に渡り役員報酬を増額改訂している。)
・業績については、H12.3期からH13.3期にかけての売上金額・総利益は微増で、H13.3期からH15.3期にかけては明らかな減少傾向
・類似法人の比準報酬月額は121.6万円に過ぎないことからも、役員報酬を上昇させる合理的根拠はない。
・税務署の当初の更正処分(H13年3月時点の役員報酬金額と同等の月額130万円としたこと)は妥当。

年額5,400万円が妥当とされた事例(平成21年2月27日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役
実際の支給額H14.12期:1億3,800万円
H15.12期:1億8,000万円
H16.12期:1億8,000万円
相当な金額H14.12期:5,400万円
H15.12期:5,400万円
H16.12期:5,400万円
相当な金額の算出方法H14.12期:類似法人の報酬の最高額
H15.12期:類似法人の報酬の最高額
H16.12期:前期同様
算出方法の根拠類似法人の代表取締役の平均値に平均値との売上金額等の差異を修正する方法が、「常に適正報酬額に当たる」と認めることはできない
⇒税務署の主張(H14.12期は2,500万円、H15.12期は2,500万円、H16.12期は1,800万円)を否認。
・H14.12期とH15.12期に関しては、当該法人より売上高が高く売上総利益が少額であった類似法人で報酬が5,400万円の事例があり、これが最高額であった。類似法人との対比の観点からは、この金額までは相当額となる。
・H16.12期に関しては、当該法人より売上高が高く売上総利益が少額であった類似法人で報酬が4,260万円の事例があり、これが最高額であったが、当該法人においてH15.12期からH16.12期にかけて、代表取締役の役員報酬額に大きな変動を及ぼすような経営状況の変動があった形跡がないことからして、前期同様が妥当。

通称「残波事件」(平成28年4月22日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役、その他取締役(計4名)
実際の支給額不明。H18.2期を基準(100)とした場合
H19.2期:109
H20.2期:212
H21.2期:211
H22.2期:130
4期総額:約12.7億円
相当な金額不明。
相当な金額の算出方法類似法人の代表取締役・平取締役の報酬の最高額
算出方法の根拠・役員らの職務の内容は、酒類の製造及び販売等を目的とする一般的な法人の役員において一般に想定される職務内容の範囲内であり、特別に高額にするほどの職務内容ではない。
売上総利益、営業利益、経常利益はいずれも減少し、使用人に対する給与の状況に変化はないのに、役員給与総額のみが上昇している。
・類似法人で最高額の役員報酬を支払っている会社を見ると、当該会社よりも経営状況が良いと評価できるので、少なくともこの類似法人の役員給与の最高額までしか相当額とはいえない。
⇒税務署の当初の更正処分を妥当とした。

年額8,830~9,245万円が妥当とされた事例(令和2年1月30日判決)

不相当対象者の会社との関係性代表取締役
実際の支給額H23.7期:2.7億円
H24.7期:4.0億円
H25.7期:4.7億円
H26.7期:4.8億円
H27.7期:5.2億円
相当な金額H23.7期:8,830万円
H24.7期:8,295万円
H25.7期:9,245万円
H26.7期:9,245万円
H27.7期:9,245万円
相当な金額の算出方法類似法人の代表取締役の報酬の最高額
算出方法の根拠・当該会社の収益が減少傾向にあり、使用人給与も減少傾向にある中で、役員報酬はこれに逆行する形で急増し、その額の高さ及び増加率は著しく不自然である。
・類似法人の最高額と比較してもその差は合理的な範囲を超えている。これにより法人税は本来よりも大きく圧縮され、課税の公平性は著しく害されている。
・代表者が果たした職責や達成した業績は相当高い水準にあったことに鑑み、類似法人の役員給与の最高額までは相当額といえるが、それを超える部分は認められない。
・類似法人の平均額を相当額とするのは、代表者の果たした職責や達成した業績を鑑みると、職務の対価としては低くなるおそれがある。
⇒税務署の主張(2,214万円~3,420万円が相当額)を否認。

まとめ

  • 前提として役員報酬が同業他社に比して既に高額であり、その状況で業績が低迷していたり従業員に対する給料は増えていないのと逆行して役員報酬を増額すると、不合理であると指摘されやすい。
  • 税務署が「類似法人の平均額」が相当額だと主張しても、裁判では「類似法人の最高額」とか「過年度報酬×一定倍率」とかまでは相当額として認められやすい。

※ちなみに、上場企業で役員報酬が「不相当に高額」として争われた裁判(裁決)例は見当たりません。つまり内部統制が効かず外部株主からの監視もないからこそ、税務署としては金額に難癖をつけやすいのだと思われますし、実際に違和感のある金額にもなりやすいのだと思います。

以上、色々と裁判例を見てみましたが、実際の税務実務では特に『代表者』に対する役員報酬の「不相当に高額」が論点となるケースはほぼありません。税務リスクとしては、代表者の『家族』に対する役員報酬だったり、役員退職金の方がはるかに大きいというのが実情です。

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