「一の取引の単位」とは?(調整対象固定資産/高額特定資産)

調整対象固定資産」または「高額特定資産」を取得した場合には色々な制限措置や、仕入税額控除の調整があったりします。

「調整対象固定資産」は税抜100万円以上が該当し、「高額特定資産」は税抜1,000万円以上が該当するとされていますが、その金額判定にはどのように行うのでしょうか?

例えば電子機器の場合などは、細かく部品等に分けて判定すれば一つひとつは十数万になるものの、それを合計すれば数千万になったりして、どのように考えれば良いのか悩んでしまいますね。

そこで今回の記事では、この論点について考えてみたいと思います。

基本通達ではどのように説明されているか?

消費税法基本通達においては、一の取引の単位について以下のように説明されています。

(一の取引の判定単位)

12-2-3 令第5条《調整対象固定資産の範囲》に規定する「一の取引の単位(通常一組又は一式をもって取引の単位とされるものにあっては一組又は一式とする。)」であるかどうかは、例えば、機械及び装置にあっては1台又は1基、工具、器具及び備品にあっては1個、1組又は1そろい、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものにあっては社会通念上一の効果を有すると認められる単位ごとに判定する。

一方、所得税基本通達においては、減価償却資産の取得価額の判定について以下のような解説があります。

(少額の減価償却資産又は一括償却資産であるかどうかの判定)

49-39 令第138条又は第139条の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては、社会通念上一の効用を有すると認められる単位ごとに判定する。

もう一つ、法人税基本通達においても、減価償却資産の取得価額の判定について以下のような解説があります。

(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定)

7-1-11 令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》又は令第133条の2《一括償却資産の損金算入》の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。

・・つまり、消費税法における「一の取引の単位」の判定と、所得税法における減価償却資産の取得価額の判定の考え方は、全く同一と言ってよいでしょう。

一方、法人税法だけが構築物のところでちょっとだけ文面が異なりますが、所得税と法人税で考え方を分ける意味が見いだせないので、おそらく通達を作成した時期や担当者が異なるため文面が微妙に違うだけで、本質的ところは一切変わらないと思います。

・・さて、調整対象固定資産の概念が生まれたのは平成22年度の税制改正であり、高額特定資産の概念が生まれたのは平成28年度の税制改正です。

一方で、減価償却資産の取得価額の判定の論点はそのずっと前からありますので、こちらに関する方が情報が豊富です。

…ということで、こちらの方をもっと深堀りしてみます。

減価償却資産の取得価額の判定

タックスアンサーに以下のような説明があります。

No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示

~(省略)~

2 取得価額が10万円未満のもの

この取得価額は、通常1単位として取引されるその単位ごとに判定します。

例えば、応接セットの場合は、通常、テーブルと椅子が1組で取引されるものですから、1組で10万円未満になるかどうかを判定します。

また、カーテンの場合は、1枚で機能するものではなく、一つの部屋で数枚が組み合わされて機能するものですから、部屋ごとにその合計額が10万円未満になるかどうかを判定します。

~(省略)~

国税庁から公式に案内されているのはこの程度です。応接セットとカーテンぐらいしか、具体的な事例としては示されていないわけですね。

なので実務でも判定に悩むことは多いですし、裁判で争われることもあります。

NTTドコモ事件(平成20年9月16日最高裁判決)

この事件は、「エントランス回線利用権」という無形資産について、一つ一つで見ると10万円未満であるものの回線全体で見ると100億円を超える金額にもなるため、その取得価額の判定についてNTTドコモと国税当局の方で裁判で争われたものです。

国税当局が回線全体で判定すべきとする論拠は以下のようなものでした。

  • 減価償却資産は法人の事業において収益を生み出す源泉として機能することをその本質的要素とする。
  • 本件権利一つではXのPHS事業において収益を生み出す源泉としての機能を発揮することができない

一方で、最高裁は以下のような論拠で、国税当局の主張を退けました。

  • エントランス回線利用権は、エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されているということができる。
  • 本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、XのPHS事業において上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる。
  • 本件権利については、エントランス回線1回線に係る権利一つをもって一つの減価償却資産とみるのが相当であり、権利の一つごとに取得価額が10万円未満のものであるかどうかを判断すべきである。
  • 本件権利をエントランス回線1回線に係る権利一つにつき7万2800円の価格で取得したというのであるから、本件権利はその一つ一つが同条所定の少額減価償却資産に当たるというべきである。

つまり、収益を生み出す源泉単位となるまでを広く見て一単位と考えるのではなく、資産がその機能を発揮できる単位を一単位とする考え方を最高裁は採用し、その一単位でも収益獲得に寄与していると見たわけですね。

そして、権利が通常1回線を1単位として取引されているというのなら、その通常の取引単位で判定すべきとも示しました。

すなわち、「1単位として取引されている」ことと「資産としての機能を発揮することができる状態にある」ことの二つの基準をもって判断したといえるわけですね。

防犯カメラセットの事例(平成16年2月4日さいたま地裁判決)

この事例は、購入した防犯カメラセット(防犯カメラ、コントローラー、ケーブル、テレビ、ビデオのセット)について、これらを全体として一単位として判定するか、それとも個々の資産金額で判定するか、納税者と国税当局で争われたものです。

国税当局がセット全体で判定すべきとする論拠は以下のようなものでした。

  • 請求書に「セット納品」とされている。
  • 購入目的は防犯用であり、テレビはモニターとして使用されておりアンテナ線は接続されておらず、各機器は固定されていて、防犯目的以外には利用されていなかった。

一方で、裁判所は以下のような論拠で、テレビとビデオは分けて一単位とすべきとして、国税当局の主張を一部退けました。

  • 各機器の構造的・物理的一体性は希薄である。
  • テレビ、ビデオは通常はそれぞれ単体で取引単位となるものであり、応接セットのようなものとは異なる。
  • 監視カメラ、コントローラー、ケーブルについては、一店舗ごとにセット購入・設置されたという経緯や使用状況から見て、各店舗単位で判定するのが相当。

最高裁判決の事例とは判断プロセスが若干違いますが、利用目的で広く見て一単位とするのではなく、資産として機能を発揮できる単位を一単位と見たところは最高裁判決と同じです。

なお、カメラ・コントローラー・ケーブルに関してはそれのみで機能発揮はできないので、この点も最高裁判決の考え方とは矛盾しないと思われます。

ちなみに、時系列的にはこのさいたま地裁判決があった後に最高裁判決があったので、最高裁判決の判断プロセスの方を実務的には参考にすべきでしょう。

スマホで固定電話なら03plus解説記事は こちらのリンク先からどうぞ。 紹介ID「0926004794」でAmazonギフト券2,000円! 0円スタートプラン で気軽に開始可能。

法務局に行かずに変更登記申請 —GVA法人登記解説記事は こちらのリンク先からどうぞ。 クーポンコード「uwiu7tv61m」で1,000円OFF!

無料から使えるクラウド会計ソフトならfreee会計最大3,576円OFFのクーポンコードにご興味の方は こちらのリンク先からどうぞ

「一の取引の単位」とは?(調整対象固定資産/高額特定資産)” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。